エルデニ・ゾーに広がる大空 / 4方面を見ること / 心が開くまでにかかる時間
広大な大地に降り立つと普段自分が見ていた視野が狭くなっていることに気づく。
自分の目が前に2つしかないのであれば、4箇所を見るためには体を動かせばいい。
入り口が4つに広がっているのであれば、4つの方向を見て近づけばいい。
あの駆け抜けて行った僧侶くんも暖かい室内でお経を読んで修行をし、
チンギスハンはライオンを従えて天を見上げ、
"ソボルガン塔"と呼ばれる釈迦の遺骨収納堂が起源で仏教や宇宙の象徴を拝み、
等間隔に置かれたストゥーパたちが行き先に立ちふさがる。
全てに共通しているのは背景に広がる青々した大空だった。カメラマンの相原正明さんは著書"誰も伝えなかったランドスケープ・フォトの極意"でこう語っている。
オーストラリアの撮影に行くと、最初の2〜3日は思うように撮れないことが多く、撮れたとしても95点くらい。(省略)。でもいちばん大きな原因は、大地と空。さらにいうならば、46億年の生命体地球そして宇宙と自分の心がシンクロしていないからです。撮影1〜3日は東京の日常を引きずっています。日常の撮影以外の雑事が頭の中の80%くらいを占めています。いくら戦闘モードで気分をハイにしても、やはり日常を振り切るには時間がかかります。
カラコルムに来る7時間のバスに乗っている間、僕は漠然と窓の外の景色を見ていた。こんなにもぼーっとしていたのは何年ぶりかと思うぐらい心が浮遊している感覚だった。けれどそのおかげでエルデニ・ゾーを訪れて歴史と広大な空を純粋に美しいと思えているのではないかと考えていた。日常を忘れる訳ではない、帰らないといけない場所もある。ただ、日常の自分という存在の奥底にある自分を開くためには、きっと時間が必要なんだ。それは数時間かもしれないし、1週間ぐらいかかることかもしれない。
「あー空ってきれいだな」いつも思える心でありたい。
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