エレベーターが象徴する物とは? / オーチス × エレベスト × 宇宙エレベーター / 志免炭鉱・志免鉱業所竪坑櫓
3階でーす
トビラが閉まりまーす
上へ参りまーす
エレベーターと送る生活
photo: pixaboy - coombesy
エレベーター。垂直に空間を移動できる乗り物。知らない他人通しが小さな空間に一緒にいる乗り物。車や飛行機が苦手な人でも利用する乗り物。
今や、オフィスビルやデパートなどの高層ビルや、駅・空港、戸建てのお家など、2階以上の建物であれば付けられているエレベーター。人々は、6階へ行くため、30階へ行くため、はたまた1階へ降りるためエレベーターを利用しています。
しかし、そんなエレベーターも昔からあったわけではありません。階段が主だった時代から、エレベーターができたことで人々は空間を縦に伸ばしてきました。では、そんなエレベーターとは、そもそも人間にとって何を象徴しているのでしょうか?
安心が加わった人乗りエレベーター
photo: Ruiz Healy Times
エレベーターの歴史は古く、始まりは紀元前236年頃。古代ギリシアの数学者アルキメデスが「滑車にロープを縛り付け、人力で引っ張り、人や物を持ち上げる」というエレベーターの原型を開発しました。しかし、その後も帝室や記念塔、紡績工場や鉱山など、様々な場所でエレベーターが設置されていきましたが、エレベーターには重要な欠点がありました。
そんな中、1954年の5月から10月にかけて、ニューヨークの機械技師"イライシャ・グレイヴス・オーチス"がニューヨークの「万国博覧会」にて観衆を驚かす公開実験を行いました。彼は、ガイドレールの付いた15メートルの台を設置し、公衆の面前でその上に立ったまま台を上昇させ、上まで達するとロープを切断したのです。しかし、台は落下する代わりに数センチだけ沈み込み停止しました。彼は言いました。
オーチス「まったく安全です、皆さん、まったく安全なのです。」
彼は自分が開発した「爪状自動安全装置」を人々に説明し、認知を広げたかったのです。それまで多くのエレベーターが存在しましたが、ロープが切れると一番下まで落下するという深刻な欠点がありました。オーチスが開発した安全装置により、エレベーターの安全性が認知され、広く普及していくことになります。(後に、オーチスの息子チャールズとノートンが「オーチス・エレベーター社」を設立し、現在でも世界No.1エレベーターメーカーとして君臨しています。)
※引用/参考 1,2,3,4
デザインや用途を追求したエレベーター
movie: hennsyuutyou - 中野坂上サンブライトビル エレベーターの風景
オーチスの公開実験以降、建物の高層化の流れもあり、上に行く通路のメインが階段からエレベーターへと移り変わっていきます。また、それにより、今まで階段では曖昧だった"階数"という空間を分ける概念が定着し、「建物全体は、まずそれぞれの階数ごとに一つの大きな空間とする」ことが普通となっていきました。
2016年時点で、世界最大の超高層ビルはドバイの"ブルジュ・ハリファ"で、828メートル・162階もあります。エレベーターのおかげで、建物は上へと高さを増していき、日本を含め全世界で様々なエレベーターが存在しています。
日本で初めてのエレベーター鑑賞ガイド"エレベスト"を出版した梅田カズヒコさんは、著書の中で様々な日本のエレベーターを紹介しています。例えば、
・東京の中心部 新宿にそびえ立ち、格子模様の扉に東京という街をイメージさせる「東京都庁のエレベーター」
・アメリカの建築家ヴォーリズによる教会のような神聖さを感じさせる「大阪・大丸心斎橋店のエレベーター」
・山を切り開き、住宅と駅を結ぶ住民の駆け足になっている日本一の斜行エレベーター「山梨県上野原市の"コモアブリッジ"」
中でも、梅田さんのNo.1が、
・吹き抜けの空間の中に、壁に貼りつくように動く素晴らしさの塊「中野坂上/サンブライトビルのエレベーター」
など、今ではエレベーターとしての機能だけでなく、内装や外装などのデザイン性、階数や動き方、土地柄や用途など、一つ一つのエレベーターに個性が含まれています。
※引用/参考 2,5,6
地球と宇宙の架け橋 "宇宙エレベーター"
photo: JSEA 一般社団法人 宇宙エレベーター協会
そして未来には、地球と宇宙を結ぶ"宇宙エレベーター"の研究開発が進んでいます。
宇宙エレベーターは、2012年に日本大手五大ゼネコンの一つ"大林組"が発行している広報誌『季刊大林 53号 (特集:タワー)』 にて、建設構想が発表され話題を呼びました。発行理由は、「東京スカイツリーを超える究極のタワー」ついて考えたからだそうです。
宇宙エレベーターの仕組みは、エレベーターというより鉄道に似ています。通常のエレベーターはケーブルを動かすことで動いていますが、宇宙エレベーターは線路のようにケーブルに沿ってクライマー(乗る部分)が動きます。
建設方法は次のように。人工衛星は地球の重力と地球が回る遠心力が調度釣り合い周回しています。特に、赤道上の人工衛星は地球の自転と同じ周期で回っていて、地球から見て止まっているように見えることから「静止衛星」と呼び、軌道部分を「静止軌道」と呼びます。その静止軌道部分(高度3万6000km)に静止軌道ステーションと呼ばれる駅を作り、そこから重力と遠心力が釣り合うようにケーブルを伸ばしていきます。そして、地球部分には海上ステーションを、宇宙部分(高度9万6000km)には重り部分を作り、釣り合わせることで完成という構想です。
ケーブルだけで相当な重量が掛かるため、ケーブルの材質に課題がありましたが、1991年に軽くて強い「カーボンナノチューブ」という素材が発見され、一番の候補として現在も研究が続いています。大林組の目標完成日は2050年。宇宙エレベーターが完成すれば、ロケットに比べて格安(100万円?)で宇宙旅行ができること、宇宙開発が今より低予算で進められること、宇宙太陽光発電でエネルギーを地球に供給できることなど、嬉しい未来が待っています。
しかし、まだ様々な課題があります。例えば、何兆円もの建設予算、利益を出し続けるビジネスモデル、カーボンナノチューブの研究、海上ターミナルや静止軌道ステーションの建設方法、クライマーを移動させるためのエネルギーの捻出と発散方法、スペースデブリ(人工衛星の残骸)の対処法、宇宙へ行くための法律の構築、地球でのテロ対策などなどです。これだけを決め、実施するだけでも2050年は優に超えてしまうのではないかと考えられます。
※引用/参考 7.8.9.10
「発展」を象徴するエレベーター
photo: flickr - rwinterpacht
エレベーターは紀元前から始まり、皇室や産業などに利用され、オーチスの爪状自動安全装置により、多くの高いビルへと広がっていきました。そして、現在では様々な用途やデザインのエレベーターが存在し、次に人々は宇宙へエレベーターを伸ばそうとしています。
これらが物語るように「エレベーター」という物は、いつの世も「発展」を象徴する存在なのではないかと考えています。上昇思考、自己の成長、楽しみの広がりなど、空間を広く使えていくことは、次のステージへ行けるんだと思います。自分の生活に当てはめてみても、勉強でも仕事でも周りがよく見えてくると次の問題がわかってきたりするものです。
ほとんどの方がエレベーターを利用したことがあると思います。けれど、エレベーターをよく見た経験は少ないのではないでしょうか?エレベストにならずとも、エレベーターに乗っている時に、ふと外装や内装、ボタンのデザインや配列、広さや景色、動き方や止まり方などに注目してみるといつもの日常が少し広く見えるかもしれません。そして、その光景がいつか宇宙の星々に変わることを期待しています。
楽しいエレベーターライフを。
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奇怪な物を見に行こう: 志免鉱業所竪坑櫓
photo: 昭和30年頃 国鉄時代の志免炭鉱風景
その昔、福岡県 糟屋(かすや)郡 志免(しめ)町には、唯一の国営炭鉱がありました。それが「志免炭鉱」または「志免鉱業所」です。
志免町が栄え始めたのは明治22年(1889年)以降に海軍炭鉱所ができてからでした。志免炭鉱には多い時で6,000人もの従業員(坑夫)がいて、石炭の産炭量は年間50万トンにも及びました。その石炭は、戦前は軍艦のため、戦後は蒸気機関車のために活用されました。エネルギー源が石炭から石油に代わったことによって、昭和39年(1964年)に全坑閉山となり75年の幕を閉じました。
photo: 石炭層の略図(竪坑櫓から地下へ伸びている)
志免炭鉱で象徴的なのが、志免鉱業所竪坑櫓(しめこうぎょうしょ たてこうやぐら)と呼ばれる大きなタワーです。建設完成は1943年、建設費は当時の価格で200万円(現在の物価で40億円!?)という費用がかかっています。地上から見える部分では、高さ53.6m、長辺15.3m、短辺12.25mですが、実は地下が430mまで伸びています。採掘した石炭と働く坑夫を上げ下げするエレベーターのような役割として活躍していました。
志免鉱業所竪坑櫓の形は、"ワインディングタワー型 (winding=巻き上げる)"と呼ばれ、櫓の上には、引き上げるための巻き上げ機の動力が入っています。こういった櫓が残存しているのは珍しく、全世界で"中国・撫順(ぶじゅん)市の龍鳳炭鉱"、"ベルギー・リエージュのアザール炭鉱"、そして志免炭鉱の3箇所とも言われています。
元々は、1936年に龍鳳炭鉱で先に櫓が完成し、志免の櫓を建設する関係者は龍鳳炭鉱に視察に行きました。彼らは、龍鳳炭鉱がある中国とは違い、日本では地震があることを考慮し、志免の櫓を地震に強い櫓として建設しました。
現在は、その歴史的な価値が認められ、2007年7月31日に国の登録有形文化財に登録されました。(解体するか残存させるかで相当もめた経緯があるそうです。)
※引用/参考 最終記載
少し前までは、櫓の下に入って見ることもできましたが、老朽化によりコンクリート片が落ちていることが見つかったことで、柵で周りを囲むようになりました。
志免町出身の僕の友人から聞いたのですが、地元の子供たちにとってはお馴染みの建造物だそうで、小学生の時はよく櫓の絵を描きに行っていたそうです。地元民にとって普通の光景にこそ奇怪は潜んでいるものです(笑)。
この志免鉱業所竪坑櫓が稼働していた当時は日本が前向きで発展の目を輝かせていたのではないでしょうか。エネルギー源が石油に変わったことで活動が停止してしまったことは残念ですが、当時必死に働いた方々がいたと思うと感慨深い気持ちになりましたし、目の前の公園で子供達が無邪気に遊んでいる姿を見て、微笑ましい気持ちになるにもなりました。志免鉱業所竪坑櫓のように昔の良い部分は残しつつ、宇宙エレベーターのように希望を持って発展していく。そんな世の中であってほしいと願っています。
アクセス
住所:福岡県糟屋郡志免町大字志免495番地3
map:Google マップ
電車:JR 香椎線須恵駅から徒歩20分(志免町HP)
バス:(志免町HP)
散策
アクセス方法は上記に書きましたが、僕はバス停のおじちゃんに騙されて変な場所に行ってしまい、緊急で途中下車して1時間以上歩きました(笑)。けれど、じわじわ大きくなる櫓を見ているとかなり興奮したので、おじちゃんを許そうと思います。
住宅街から見える光景も実に素晴らしい。奇怪だ。
いよいよこの坂の上に行けば目の前です。
来たー!"すごい"の一言。経年劣化は進んでいますが、哀愁を感じます。立入禁止の表示もありますね。
無邪気に走る男の子と、そのお母さんと、志免鉱業所竪坑櫓。
角度を変えて。囲いの周辺は公園と大きな広場と総合福祉施設シーメイトがあります。もしお手洗いに行くならシーメイトにお借りするといいと思います。僕が行った時は、何かの屋台が1店出ていました。やきいもだったかな?
近くで見上げると本当に力があります。相当感動しました。
周辺には説明のパネルもあります。(画像の色合いが荒かったのでモノクロにしています。)
こちらは「第五坑西側坑口」の説明パネル。
「第五坑西側坑口」の実物。中に入ってみたかった。
「第八坑本卸坑口」の説明パネル。
「第八坑本卸坑口」の拡大構造図もどうぞ。
「第八坑本卸坑口」には坑口はなく、大きな岩が幾つか置かれていました。石炭?
こちらが「第八坑連卸坑口」の説明パネル。
「第八坑本卸坑口」の実物。高さ3.15mもあるので迫力がありました。
おまけ
以前、モノクロの心理に関する記事を書いたのですが、撮った写真をモノクロにしてみました。炭鉱があった当時にタイムスリップしたような感覚になってもらえたらいいなと思います。
エレベーターに乗る時の奇妙な沈黙が苦手です。
これからはどんなエレベーターか観察する時間にしたいと思います。
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*引用/参考資料
1. 金持ちはなぜ高いところに住むのか 近代都市はエレベーターが作った - (著)アンドレアス・ベルナルト (訳)井上周平・井上みどり(柏書房/2016年6月)
2. エレベスト 日本初のエレベーター鑑賞ガイド - 梅田カズヒコ(戎光祥出版/2008年6月)
3. Elevators - Escalators & Moving Walkways - Maintenance Programs - Otis Elevator Company
6. Facts & Figures | Burj Khalifa
7. 初めての方へ──宇宙エレベーター早わかり | 一般 | JSEA 一般社団法人 宇宙エレベーター協会
8. 宇宙エレベーター建設構想を動画で紹介|最新情報|株式会社大林組
9. 広報誌『季刊大林』53号(特集:タワー)を発行|プレスリリース|株式会社大林組
10. 宇宙エレベーター その実現性を探る - 佐藤実(祥伝社/2016年8月)
*奇怪な物を見に行こう 引用/参考資料
・【志免立坑櫓を活かす住民の会】残そう!活かそう!世界一の近代化遺産を…
・日本近代化の証人・石炭産業の礎【志免立坑櫓を活かす住民の会】
・ワンダーJAPAN 2005 WINTER 三才ムック vol.115
*related
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【Lamb音源】
Lambのプレイリストを公開しています。1曲1曲から何かを感じてもらえたらうれしいです。ライブ情報も公開していますので、随時お知らせいたします。
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