カンボジア・ラオスの旅 [5] / カンボジア最後の遺跡と最後の晩餐 / 一瞬の出会い × 異国の音楽 × チョルモイ!!
交差点のような出会い
寺院と音楽
カンボジアのキャバクラ
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※前回の続き
出会いと別れの"プリア・カン"
カンボジアに来て3日目。カンボジアの空気にも馴れ初めてきた。3日目の予定は、昨日行けなかった遺跡を、昨日よりも"ゆっくり" "じっくり" 回ることだった。それは決して昨日までを適当に見ていたという意味ではなく、「感じる」という気持ちを大切にしたいという思いからだった。
まず初めにアンコール・トムの奥にある"Preah Khan プリア・カン"に訪れた。名は「聖なる剣」を意味し、ジャヤヴァルマン七世がチャンパ軍に勝利した記念として建設され、父ダラーニインドラの菩提寺(ぼだいじ)とされている。範囲は非常に広く、室内でないオープンな通路が数多くあり、ギリシア神殿のような2階建ての建物があることも特徴だ。昔は、仏教の教養を学ぶ場でもあった。
入り口を過ぎると各国の説明文があった。日本語もあった。
長い通路の途中には、絵を描く男性がいた。絵を描き続け生計を立てているようだ。
入り口は他の寺院と同様に尊厳のある姿をしていた。
中はいくつか崩れている箇所が見受けられる。
デバターも立体的。綺麗に残っていた。
少し中を歩いていると、片側の出口に出た。首なしは人の想像を活性化させると思う。
太陽の下、見上げた緑は輝いて見えた。
昨日の"タ・プローム"同様、木々が遺跡と一つになっていた。
2階建ての建物は、(行ったことはないが)ギリシアを感じさせた。なかなか伝わりづらいかもしれないが、キン肉マンのロビンマスクがいそうな気がした。
改めて言うが、首なしは人の想像を掻き立てる。
時間が来たので、アンさんとの約束の場所に行こうと中央の通路を歩いていた時。僕は一人の女性とすれ違った。
僕がバンコクからカンボジアに来る飛行機の中でのこと。その飛行機は、中央の列の両側が3人席になっている仕様だった。僕はその左側の3人席の中央だった。僕の右側は日本人の女性、左側は中国人風の女性。僕は3人席の中央だったけれど、小柄な二人だったので楽に座れてよかったな、程度に思っていた。右の日本人女性は通路を挟んだ反対側に座る友人と来ているようだ。終始楽しく話していた。少し日本人女性と話をしたら、卒業旅行で来ているという学生なんだという。二人でアジアを回っているらしい。最終的に「楽しみましょう」と会話をして話を終えた。
そうして数時間、飛行機はカンボジアへ近づいた。乗客は入国審査に必要な用紙を記入し始めた。僕もカバンからペンを取り出して、「地球の歩き方」を少し確認しつつ、一つずつ事項を埋めていった。ホッと書き終えた瞬間だった。左側から「ペンを貸してくれませんか?」という綺麗な日本語が飛んできた。先ほどの中国人風の女性だった。「いいですよ。」と僕は答え、ペンを差し出した。彼女はすらすらと用紙を書き終えると、「ありがとうございます。」とペンを僕に返してくれた。おもわず「なんでそんなに日本語がうまいんですか?」と質問した。話を聞くと、彼女は横浜国立大学に中国から留学しているという。それから、建築関係を学んでいること、日本の大学で日本人に未だに慣れないこと、中国の生まれた場所などを教えてくれた。その代わりと言ってはなんだけれど、僕も受験で横浜国立大学に落ちたこと、土木関係を学んでいたこと、中国は上海に行った事があることなどの話を返した。でも、僕は不思議な感覚を感じていた。自分のことを彼女に話しているようで、僕は僕に向かって話をしているようだったからだ。今までの僕はどう生きてきたか、どんな失敗や学びを得てきたか、なぜ自分は今カンボジアに向かっているのかなど、一つ一つを確かめるみたいに。
そんな中国人の彼女と僕は、カンボジアのプリア・カンという同じ遺跡で、同じ時間、同じ場所ですれ違った。正確には、僕が気がついただけで、彼女は気がついていなかった。ふっと声をかければ、何か世界が広がったかもしれない。けれど僕は声を送りはしなかった。こういう出会いもあるんじゃないかと感じていたからだ。
全ての出会いがずっと続いていくわけではない。交差点を渡るように、長い道のりの中で、同じ時間、同じ交差点をすれ違うだけの出会いもある。彼女は、様々な出会いがあるということを教えてくれたのかもしれない。今も彼女は勉強をがんばっているだろうか。
"ニャック・ポアン"で音楽とともに
"Neak Pean ニャック・ポアン"は、水面に浮かぶように水に囲まれた寺院だ。クメールの農耕文化を象徴しているという。行く通路はすごく細く、両サイドは水・水・水だった。
例えば世界が終わったら、世の中はこんな感じになるのだろうか。
でもなぜだか気持ちがすごく落ち着いた。水は人の気持ちを落ち着かせてくれるみたいだ。
細い通路をまっすぐ進むと場所が開けた。ニャック・ポアンには4面に「象・人・ライオン・馬」の頭部の石像が埋まっている。暗くて見えないが中央の暗い穴の部分には、象の頭部が埋まっている。ぜひ見てみたかった。
中央には円形祠堂。よく見るとナーガが巻き付いていてかわいい。
ニャック・ポアンの入り口には何店舗が出店が並んでいた。奇妙な人形が仲間になりたそうにこちらを見ていたので、写真だけ撮ってあげた。
movie: monokann: Music in Neak Pean of Cambodia - YouTube
カンボジアに来てから、訪れる寺院の3箇所に1つには、音楽バンドがいた。
使っているのはカンボジアでは伝統的な楽器。 馬尾の弓で演奏する弦楽器"トロー・チュー(胡弓)"。元々はタイの楽器で、昔は鰐(ワニ)の形をしていた弦楽器"ターケー(鰐琴)"。掌で音を鳴らす打楽器"スコー(太鼓)。日本でもたまに見かける楽器を使って、みんな無表情で演奏し続けていた(笑)。 目的は様々なようで、洪水の寄付だったり、小遣い稼ぎだったり。けれど、やはり音楽があるだけで寺院全体が柔らかく見えるのだから、音楽のありがたみを深く感じた。異国でもそれは変わりはしない。
空飛ぶ樹"タ・ソム"
続いて元々僧院だったという"Ta Som タ・ソム"へ。新緑の木々の中に神々しい入り口(西門)があった。
非営利組織"WORLD MONUMENTS FUND ワールド・モニュメント財団"の案内板もあった。タ・ソムはWMFのカンボジアスタッフによって最初に活動が行われた場所なのだ記載がある。
ちゃんと自分の写真も撮っておこう。
中は回るのにはほどよい広さ。数カ所に渡り石崩れが多く見られた。
内側も精巧に積み上げられていた。
タ・ソムの一押しはこの東門だ。裏側の緑を僕は見に来た。
東門の入り口を駆逐するほどに根によって包まれている。ラピュタのように、このまま空に飛んで行ってしまいそうだ。
「緑を感じる」。そんな自然なことを忘れかけていた気がした。誰かが言っていた、「旅は何かを見つけるためにするのではない、新しい視点を探すためにするのだ。」と。僕はその言葉に加えたい。「当たり前を思い出すためなのだ。」と
タ・ソムの出店。
オレンジの坊主たちが映える絵たち。こんな優しい絵を描いてみたい。
東メボン〜プレ・ループの宮殿
四隅の象が特徴の"East Mebon 東メボン"は、ラージェンドラヴァルマン二世によって建設された。これら象が何を意味しているのか、意味していないのか。
青空の中に聳える宮殿には、重い扉があり、大切な何かを守っているようだった。けれど、これは偽扉だという話がある。
青と赤茶色はすごく映えることを知った。
幾つかは無残にも崩れているものもあった。物はいつか壊れていく。
近くのプレ・ループに向かう途中、地元民がバレーボールに勤しんでいた。上裸の姿が熱気を感じさせた。
続いて"Pre Rup プレ・ループ"。東メボンと同じ作りながら、階層が高く、威厳を感じさせた。プレ・ループでは死者を荼毘(だび=火葬)していた場所が残っている。
寺院は崩れた部分が多いが、敷地は広く、階層がしっかりと感じられる。
上では権力者が、下には庶民が活動していたのだろうか。昔から、位の差というのはあったのだと実感した。
足だけのやつ。
待ち合わせ場所に向かうと、アンさんはスヤスヤ眠っていた。アンさんに聞くと、「Hatto-riは見る時間がすごく長いね。他の人はすぐ帰ってくるのに、Hatto-riはなかなか来ない。すごくよく見ているんだね。」なんてことを言っていた。一つ一つを六感まで含めてしっかりと感じたいという気持ちがある。
最後の遺跡"バンテアイ・サムレ"
この旅において、カンボジアでの最後の遺跡。「サムレ族の砦」という意味を持つ"Banteay Samre バンテアイ・サムレ"を訪れた。入り口正面は水場が広がっていた。僕は栄養補給のために、コカコーラ社のスプライトを飲んだ。喉への痺れと刺激を与えたい時は、大抵スプライトに頼ってしまう。世界共通の味だ。
最後の入り口。
入り口を入るとすぐに声をかけられた。「これ買わない?」。(無視して進もう。)
「上智大学アンコール遺跡国際調査団」の案内板。大学時代にこんな研究をしていたら、楽しかっただろうなと羨ましくなった。
東塔門の入り口は少し味気ない。けれど、人が少ないせいか、すごく穏やかな時間を感じた。
寺院内で、座る老人。
石一つ一つに年月の経過を感じる。
最後のデバターも不敵に笑っているように見えた。「また来なさい」と言ってくれていればうれしい。
座ってこの場所を感じていた。この場所に来た意味や、これからこの気持ちをどうするかも含めて。
「バイバイ、アンコール遺跡群。僕も僕の時間を過ごしていくよ。老いるかもしれないけれど、歳取ることを楽しみながら。」
最後に、「道がいい」。
カンボジア最後の晩餐
アンさんは、初日と同様に晩御飯に誘ってくれた。今回は初めから弟くんも参加だ。僕らは杯を交わしてカンボジアビールを飲み始めた。相変わらず弟くんはよく喋り、よく笑う。
飲み始めて30分ほどしたら、アンさんが電話をかけ始めた。すると数分後、一人の男の人が参戦した。彼はこの店の店長だといい、アンさんとは古くの友人だという。僕らは4人でまた飲み始めた。
弟くんが教えてくれたのだけれど、カンボジアビールは瓶の栓の裏に文字が書かれている。これはカンボジアビールを作る"Khmer Brewery クメールブルワリー" がやっている懸賞なのだという。もし当たりが出たら、高額商品が当たるらしい。テレビとかIphoneとか当たるみたいなことを言っていた。こういう日常に楽しみが含まれていることは素晴らしいことだなと感じていた。
先ほどの店長は2杯ほど飲んだら部屋を去っていった。赤い服を来た従業員のお姉さん達が新しいビールを出してくれた。と思っていると、奥の方で黒い服を来たお姉さん方が列を成していた。すると、その内の3人の女性がこちらの空間に向かってくるではないか。「どういうこと?どういうこと?」と困惑している僕に、2人は満面の笑みで笑っている。どうやら今日のお店はお姉さんが付くお店なのだという。「はめられた?・・・」と感じたけれど、僕は冷静に楽しく飲んだ。
僕の隣に来たお姉さんはわりと日本人顏のかわいらしい方だった。けれど、彼女は日本語も英語もわからない。僕はクメール語がわからない。アンさんと弟くんからのパスを受けるのがやっとだった。酒が入った彼らは後半は終始下ネタばかり言っていた。(下ネタは世界共通のようだ。)クメール語で乾杯は「チョルモイ!」という。しかし、少し発音を変え「チョンモイ」というと、ここでは言えない下ネタとなってしまうという。彼らは僕にその2つを交互に言わせては爆笑して、かなり上機嫌だった(笑)。
明日も旅が続くので、お会計を頼んだ。どれだけの額になったのか、日本なら1万は軽く超えるだろう。レシートがアンさんに渡され、僕も値段を見た。なんと約12万リエル(3,000円)ほど!これだけ飲み食いして、女の子も付いて、なんて破格の値段。カンボジア価格だ。じゃあ、「僕は4万リエル(1,000円)でいいね」とお金を出そうと思った矢先、アンさんが「Hatto-riは、10万リエル(2,400円)だ。」という。「こいつらは何を言ってるのか?」と頭にはてなが浮かんだ。明らかに僕よりもかなりペースも速く飲みまくっていたのに、彼らは2人で600円ほどしか払わない気だというのだ。「なんてやつらだ。最後にタダ飯食おうとしてきたな!」と思い、彼らにツッこんだ。すると、アンさんは「今、2人で4万リエルしかないんだよ。」と財布を全開で見せてきた。僕は口論をするのも面倒になり、2,000円ぐらいならいいかと払ってあげることにした。
カンボジアの物価と、日本の物価は違う。だから、僕らの高々1円も彼らにとっては大金になり得る世界があるのだ。居酒屋に行ったら一人3,000〜5,000円払うのが普通という、日本の法則に縛られている自分に気がついた。ここは、別の国、カンボジアなのだ。
とまあ、色々あったが、僕らが楽しくお酒を飲めたことに変わりはない。カンボジアの地元民の気持ちを少しでも教えてくれた彼ら2人に感謝したい。「オークン(ありがとう)」。カンボジア最後の晩餐は、楽しい思い出と共に終わりを迎えた。
正しいこととはなんだろう。間違っていることとはなんだろう。今、あなたがもつ常識は、どこか別の世界では非常識かもしれない。いい・悪い。安い・高い。おもしろい・おもしろくない。対となる言葉を決めつけているのはあくまで自分で、誰かにとってはそれは真逆の意味を持つかもしれない。「常識を疑え」。その頭が柔軟になった先に、また新しい自分が見えるのではないかと感じている。
※カンボジア・ラオスの旅 no.6に続く →→→
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*引用/参考資料
・D22 地球の歩き方 アンコール・ワットとカンボジア 2017~2018(ダイヤモンドビック社/2016年12月)
・Angkor - UNESCO World Heritage Centre
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